「さっきのナイフ。少しは当たったろ? それには麻酔液が塗ってあったんだ」

 麻酔──?

 激しい眠気に頭を振るが、どんなに抗っても意識は遠のいていく。殺意は確実に近づいているというのに思考が回らない。

 私を造り出したベルハース教授のチームも知らされていなかったとは──自由を手にして十年、新たな真実はあまりにも衝撃的で残酷だ。

 政府からはキメラと呼ばれていたが、ベルハースたちは密かにベリルと名付けていた。

 チームリーダーのベルハース教授は、白髪混じりのブラウンの髪に仏頂面の威圧感を漂わせる老齢の無骨な男性だった。

 彼らはキメラの誕生に喜びつつも、心に暗い影を落としていた。しかし、国は生まれた人工生命体の知能の高さに目を付け、施設を増設しあらゆる専門家たちを集めた。

 ベリルはそうして、物心が付く前から日に十二時間以上もの勉学を課せられていた。

「う──っ」

 意識を保つことが難しくなってきた。見つけられるのは時間の問題だろう。

 次に目を覚ましたとき、奴は私をどうしているのかと考えながらベリルは目を閉じた。

「見~つけた」

 クローゼットを開けたフォージュリは、意識のないベリルを見下ろし下品な笑みを浮かべた。