「どこ行きたい?」
「そうだなぁ……。夏祭り、海、映画……、それから~……」

そう話しつつ、龍輝君を見る。
本当は一緒に過ごせるならどこでもいい。
それが本音だ。

「えへへ、龍輝君と一緒ならどこでもいいよ」

そう微笑むと、龍輝君は少し驚いた顔をしてから私の頭をグイッと自分の方に引き寄せた。
龍輝君の肩に頭をコテンと乗せる。

「ここであまり可愛いこと言わないで」

耳元で低い、艶のある声が響いてドキンと胸が鳴る。

「えぇっ、別になにも……」

慌てると、抱きしめる龍輝君の手に少し力が入った。

「一応、ここは学校だからって何もしないようにしているんだ。これでも色々と我慢してるから……」
「が……」

我慢って……。
そう言われて顔が余計に赤くなった。
心臓がうるさいくらいだ。

「あ、あの龍輝君……」

いいかけた時、予鈴が鳴った。
その音に、龍輝君の力が抜ける。

「そろそろ行くか」
「そうだね……」

頷きながら顔をそっと隠す。
恥ずかしい。予鈴が鳴って良かったと安心した。
だって私、今キスしてって言いそうになってた。

「そ、そういえば龍輝君、どうして最近忙しいの?」

教室に戻りながら、誤魔化すように話題を変えた。

「まぁ、色々と」

さっきと同じように龍輝君は言葉を濁す。
色々と? ってなに?

「塾でも行き始めたの?」

龍輝君は習い事はしていなかったはずだ。
いわゆる、地頭が良いって人である。
それでも夏期講習にでも行っているのかな?

「塾……、まぁそんなとこかな」

少し考える素振りを見せた龍輝君は頷いた。
なんだか歯切れの悪い言い方……。
気にはなったけど、クラスまで来てしまったのでそれ以上は追及せずに手を振って別れた。