「たっくん…? 本当に……?」

震えるこの唇から漏れたその名前は懐かしい響きをしていた。

“たっくん”と呼ばれた目の前の男はクスリと笑う。

「やっと思い出した?」
「!」

うそーーー……………

ただただ驚く私を満足そうに龍輝君は見ている。

だって、なんで?
あのたっくんは…………。
もう…………………。

「どういうこと……?」

“たっくん”こと龍輝君は私の髪をそっと撫でる
その手は大きくて温かくて…。
あの“たっくん”だとは想像つかない。
龍輝君は私の髪の毛を手でいじりながら、ニッと笑う。

「生きてるなんて思わなかった?」
「っ…。」

本当にたっくんなんだ。
私はその場にへたり込みそうになったが、龍輝君が私の腰を支えて受け止めた。
抱きしめられるような形となったが、今の私はそれを気にする余裕なんてない。

「そこまで驚くか?」

龍輝君は笑いを含めた声で私に囁く。

「そりゃ、そうか。お前にとっては、俺は死んだと思ってたんだもんな」

そう言って龍輝君は撫でていた私の髪をグッと引っ張った。

「いたっ…!」

引っ張られたことにより無理矢理、龍輝君と目を合わせさせられた。
その龍輝君の目はとても冷たい。
その目が怖くて、背筋がゾクッとしてしまった。

龍輝君…怒ってる…。

龍輝君はそっと私を離し突然、自分のシャツのボタンを途中まで開けた。

「た、龍輝君!? 何しているの!?」

はだけた状態の龍輝君に驚いて声を上げる。
そんな私をチラッと見て、龍輝君は左肩を出した。
それを見て私はハッと息を呑む。
左肩から腕にかけて、7~8㎝くらいの大きな傷があったからだ。

「それ…」

龍輝君はそのまま再び私に近付き、後頭部を掴み、引き寄せる。
龍輝君の整った顔が目の前にある。
服もはだけたままだから、直にその胸板が私に触れていた。
こんな状態なのに心臓は正直で……。
不覚にもドキドキと鳴り響くが、龍輝君は顔色ひとつ変えていない。
ひたすら戸惑う私をじっと見つめた後、龍輝君はニヤッと笑った。

「この傷はお前のせいでついたんだよ」
「龍……」

その一言に、血の気が引いた。
思い出される記憶。

「お前があの時、俺を置いて行かなければ、付くことはなかった傷だ」
「あ、あれは…」
「わかってるよ。ふざけてただけだって……」

“でも…”と龍輝君は不敵に笑った。

「俺はショックだった」
「ご、ごめんなさい……」

手が震えた。
龍輝君は、軽く首を傾げた。

「こんな俺とお前の過去を他の人が知ったら…どう思うかな?」
「えっ!?」
「俺はいいけど…お前は大変なことになるかもな」

龍輝君は意地悪くニッコリ笑った。
子供の頃の過ちとはいえ、人を傷つけていたなんて知られたら……。
なにより、人気急上昇中の龍輝君の傷が私のせいだなんて、他の(特に女子)人が知ったら…。
私かなりマズイ……よね!?
もちろん、平穏な高校生活なんて送れるはずがないじゃない。

「……言わないでほしい」

私は龍輝君の服をギュッと掴み、見つめて言った。

「何度でも謝るわ。本当に悪いことをしたと思っている。だから、このことは……」
「うん」

と、とても柔らかくニッコリ微笑んだ。