「…もうっ!酒井くんったら」

諦めて歩く看護婦。
私はその人を呼び止めた。

「あのっ!」
「あら!505の青柳 空さん」

看護婦は私の「名前」を呼び、どうしたの?と続けた。


「今の人何の病気なんですか?」

私が聞くと、笑顔だった看護婦がすっと真顔になった。

「酒井くんは喉の病気なの」


「…喉?」
私は看護婦の言うことを理解できなかったから繰り返した。

「酒井くんは喉に腫瘍があるの。

あまり大きい声は出せなくて、その上あまり激しい運動が出来ないの。
逃亡すると皆で追いかけなくちゃいけなくて
命に関わることだからね」

看護婦はそう言って
「まだ17歳なのにね」と言った。


「…17?」
私と同い年。

「あっ!酒井くん探さなきゃ」
看護婦は気がついたように焦りだした。

そして「じゃあね、空ちゃん」と言ってまた走り出した。


看護婦は篠原 佑27歳。
明るくてお喋りな人だった。


私は酒井 尚樹に言われたように階段で上の階に行き505号室を探した。


そして、部屋の窓から空を見た。雲一つない青空で私が誰かにキスされている、そんな映像が頭に流れた。

でも誰だか解らない。頭の傷が痛んだ。


がらっと音が鳴り、部屋のドアが開いた。

「よぉっ」
ドアの前にいるのは、金髪の男と栗色のボブの女。後ろには、茶髪の短髪男。

「空ぁ!」
栗色女が私に抱き着く。傷のある腕が痛い。

「おい、止めろ茜」
茶髪男が止める。



「あんたら誰…?」


私がそういうと三人の動きが止まった。