「あっ!斉藤!…先輩!」


坂田君が向こうから走ってきた。


すると、一瞬で表情が変わって、さっきの優しそうな先輩になった。



「ゆかちゃんいたよーっ!」

私の頭を軽くポンポンとしながら言う相沢先輩。

「ありがとうございます!香穂先輩!」


「ま、何かあったらあたしに相談してね?んじゃ☆」



相沢先輩は坂田君に見えないように、軽く私をにらんでから3年生の教室のほうに歩いて行った。





手はまだ震えてたけど、それでも平静を装って、

「…わざわざごめん」

と言った。


「どうしたんだよ?」と聞く坂田君。

間違っても本当のことなど言えず、「本で感動した」と伝えた。




「そっか。なんか無理におっかけたりしてごめん」



坂田君はそれだけ言うと、踵を返して教室へ戻っていった。