そこだけ、秋の陽のスポットライトが当たっているようでした。


おじさんの足元には夥しいほどのイチョウの葉。

黄色く染まっていました。

イチョウの木とおじさんの上に

包み込むような
あたたかい光。


おじさんは、じっとその木を見上げていました。

イチョウの木も
おじさんを見つめていました。


時間が止まったような静かな正午。


おじさんはイチョウに語りかけ

イチョウは静かに耳を傾け…


今度はイチョウが一言、二言。


おじさんはゆっくり、うなづきました。



やがて、長距離のバスが…。


おじさんは、バスのステップに右足をかけたまま振り返りました。



一葉のイチョウが
ヒラヒラと

おじさんの肩に止まりました。


おじさんは「またね」と言いました。

イチョウの木は
かすかに肩を震わせました。



おじさんは今度はニッコリ笑って言いました。

「またね!」




おじさんはこの季節、いつも奥さんと故郷に帰ります。

そして、いつもこのイチョウの木が見送ってくれるのです。



でも、
今年はおじさん一人です。


おじさんは、奥さんに「またね」って
お別れをしたのでした。