のどかな秋の日。
 学校から帰って、ひろこちゃんとかくれんぼをした。
お腹が空いていたので冷たいご飯でおにぎりを作ることにした。
けれど、上手く握れない。
冷たいご飯は、いくら水をつけてもお米の粒がぽろぽろと指の間から落ちてしまう。
ふにゃとした頼りないおにぎり。
4つ作った。
2人で2つづつ。
ひろこちゃんが鬼。
私は、和室の作りつけの洋服ダンスに隠れることにした。
おにぎりを持ったまま。
2段になっている上の方をやっとの思いで登って扉を閉めた。
私と扉は向かい合わせ。
「もうーいいかい?」
「まーだだよ!」
「もうーいいかい?」
遠くで何度目かのひろこちゃんの声が聞こえる。
少し焦れている。
「もうーいいよ!」 ひろこちゃんが段々近づいて来た。
ドキドキ。
 心臓が飛び出しそう。息を詰める。
両手でしっかりとおにぎりを持ったまま。
あぁ、苦しい。
見つかるかしら?
静かに しずかに
また呼吸を止める。
 「ブハー!」
苦しくなって思わず声を上げる。
その瞬間、勝手に扉が開いた。
「みーつけた!」
ひろこちゃんが開けたのだ。
私は、そのはずみで畳の上に突っ伏した。
もともと、あやふやなおにぎりがそこら中に散らばった。
早く片付けないと叱られる。
ご飯粒は父の大事な鞄の中にまで飛び散っていた。
ひろこちゃんと必死に箒で掃いた。
時々、ご飯を踏ん付けながら。
ようやく、きれいになって2人でホッとしてにっこり。
それから2、3日して父が「なんで鞄の中にご飯粒が入いとっただらかいなぁ~?」と言って首をひねった。
 私は黙っていた。
 叱られなかった。
 後になって、父は知っていたんだろうと思った。