「大丈夫ですか?」

優しい声と暖かい腕で支えてくれた。

目の前には綺麗な黒髪と伏せ目がちの表情。

不意に、

胸が疼く。

「頭」

「失礼ね!」

前言撤回だ。やっぱり鬼畜だこの男。

そして疼きも夏の暑さでむせたんだ。

「えっ!違います!頭押さえてたから頭痛かと」

「主犯は貴方なの!」

「えぇっ!?」

素だからむかつく。自覚ないのかしら?


「えぇっと…ごめん?」

「何で疑問系?」

やっぱり自覚ないのね。
悪態をつきながら足早に家に帰る。





「た、ただいまお母様」

「お帰り不良娘」

玄関を開ければ鬼…いや鬼のような母がいた。

「コンビニで立ち読みしてたら遅くなって…」

「だったらコンビニの子になる?」

「ご、ごめん…」

「いいから。早く着替えなさい。
ご飯は皆食べちゃったから一人で食べてね」


父よ兄よペットのタマ吉よ。
食べたのね。私を置いて…なんて言えない。
優しいから待ってくれてたんだきっと。

でも我慢出来なかったんだきっと。

冷めてしまった夕食のスパゲティー片手に私は二階にある自分の部屋に向かう。

スパゲティーを落とさないよう慎重にドアを開ける、と。

部屋の真ん中で我が家の白い天使、猫のタマ吉が伸びをしていた。

「タッ…タマ吉!ちょっと出て!今だけ!」

「にゃぁー」

「…可愛いなぁコラ」

スパゲティーと鞄を学習机に置いて窓に向かう。

「秘密だぜ?相棒」

タマ吉に笑顔を向け白いカーテンを開き、窓を開ける。

カラカラ、と転がるような音を立てながら窓を開ければ、蒸し暑い夜の空気が再び顔を撫でる。

目の前には建物や住宅の電気による夜景。

その景色に少し見たあと下を覗き込み、右手を降る。

そうすれば、電気による夜景なんかよりも。

ずっと綺麗に輝きながら男が浮き上がってきた。
私は男を急かしながら部屋に入れた。

男が床に座ったのを確認すると素早く窓を閉め、カーテンを閉じる。

「あの…」

男が胡座をかきながら私に尋ねてきた。

「なんで俺はわざわざ力使ってまで窓から入らなきゃならないんですか?」

男は不思議でたまらないと同時に。
少し怒っている表情で私に聞いてきた。

「…そりゃあ、いきなり男性を家に連れ込んできたらだれだって」