『ごめんなさい‥ごめんなさい‥』

私は何度も謝った。男の人は何も言わずに、ただ私の頭を優しく撫でてくれてた。それでも泣き止まない私を見て、「ちょっと待ってろ」と言って何処かへ行ってしまった。一人になり人恋しさから泣き止むことはなかった。


しばらくすると、男の人が戻って来た。そして

『ほら』

そう言って、私の目の前に棒の付いた飴を差し出してきた。私は拒むことなく、それを手の中に収めるも、

『子どもじゃないもん‥』

と、少し反抗した。そんな私の態度を見て少し呆れた声で

『じゃあ、返せ』

そう言いながら、私の手から棒の付いた飴を奪い返そうとした。でも、私は手を緩めることはなかった。「貰ったんだから、これはもう私のものなの」などと屁理屈を言いながら舌を出して警戒した。


一瞬、唖然とした顔で私を見てきたけど、口に銜えていたタバコに火をつけ

『‥泣き止んだからやる』

気を使って、私のいる方ではなく反対を向いて白い息を吐いた。しかし、風向きが私の方だったので、タバコの煙がこっちに向かって来た。避けようと思えば避けれたけど、私は煙を目で追った。

風に乗ってどこに向かうのか終着場所が知りたかった。知りたかったけど‥その答えを見つけることは出来なかった。

男の人がタバコを一本吸い終わったとき、私の手のすぐ横に、その人の手が置かれた。風の音だけが聴こえる中で、男の人だけの気配を感じ囁くように話し始めた。


『ごめんなさい‥』

私のその言葉に、男の人はゆっくりと振り向いた。

『うん‥』

一瞬、私に何かを伝えたそうにも見えたけど、お互い自分の気持ちを上手く言葉に出来ないでいた。見つめ合った時間が長く、緊張から思わず足元を見た。そんな私を彼は優しく抱きしめてくれた。