「閉館時間となりました。館内に残っているお客様は、速やかに館内出口までお越しください。本日のご来場、誠にありがとうございました」

場内アナウンスが流れた。


『は?もう、そうな時間かよ?陽菜、お腹空かね?これから夕飯食べに行こうぜ』

『そう‥だね』

私は下を向きながら言った。

『なんか元気ねぇな。疲れた?それとも‥楽しくなかった?』

心配そうに私を見つめてきた。

『そ、そんなことないよ!!凄い楽しかったよ。楽しかったから、まだ‥いたかったなぁと思って』

私は笑顔で話した。

『そうか?なら良かった。じゃ、俺のオススメの店に行こうぜ』

私の左手を掴んで館内出口まで走り出した。

『ちょっと!!走らなくても‥私‥』

龍二は、一度振り向いて「俺がついてるから大丈夫」と言って駐車場に止めてある車まで、ノンストップで走った。こんなに走ったのは、小学校以来じゃないかと思う。

周りのカップルは、楽しそうに手を繋いで歩いているのに、私たちだけ走っていた。目立つんじゃないか?と冷や冷やしていたが、カップルは、自分達の世界を作っていたので、私たちの存在なんて目に付いていない様子だった。路上でキスをしているのに比べれば、私たちの存在なんてちっぽけなんじゃないかと思った。


車に乗ると龍二がドリンクを私に差し出してきた。

『な。だから俺がついてるから大丈夫だって言っただろ?』

龍二は笑顔で言ってきた。私は「ありがとう。そうだね」と笑顔で返した。龍二は、鼻歌を歌いながら車のエンジンをかけ、車を発進させた。
龍二が鼻歌を歌っている時は、喜んでいることを表している。私もなんだか嬉しくなってきて、貰ったドリンクを一口飲んだ。



熱唱していた歌が終わり、龍二は違う曲を歌いだした。


「俺がついてるから大丈夫」

不意に、この言葉が私の頭から蘇って来た。さっきまで楽しかったのに‥急に胸が締め付けられる思いでいっぱいになった。私は胸を押さえて呼吸を正した。こんな私の姿を龍二に気付かれたら、きっと心配する。大きく深呼吸をして、窓の外の景色を眺めていた。