「あの…、」
声をかけたものの、名前を知らないから、口ごもる。
彼女は振り向いて、少し驚いた顔をした。
「あら、貴女は…お菊さんのところの…?」
「はい。酒井悠希です。あの…ご結婚、おめでとうございます。」
頭をさげた私に、彼女は「まぁ…」と言って笑った。
「わざわざ有難う。なんだか…照れるわね。」
「幸せに、なってくださいね。」
そう言って笑えば、有難うと呟いた。
「結婚なんてね、まだよくわからないわ。不安のほうが大きいの。だけどね、」
少し視線を落として、噛み締めるように小さく、囁く。
「心底、好きだと、思える人に出会えて、よかった。」
何年経っても、愛せる人に、出会えた、その意味。
私にも、いつか分かるかしら?
何かを失ったって、愛し抜ける人に、出会えるかしら?
そう思える日が、来るかしら?
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