生まれた場所も、 家族のことも、 その名が本当の名なのかさえ、 何も、知らない。 そう思うと無性に悲しくなった。 「…俺らは、あいつの事なんぞ何一つ知らねぇんだよ。」 今までどんな風に生きて、 何を感じてきたのか。 何が好きで、 何が嫌いか、 年齢すら、知らない。 何も、何一つ。 「…失礼しました。」 そっと襖を閉じて、廊下を歩く。 知りたい、と叫ぶ自分を感じて。 .