近々取り壊される予定のビルの廃墟の屋上から、いつもより近くに星空を見上げる。


そっと空に手を伸ばす。


それは、小さい頃からの癖だった。


きらきらと光る星を夜空に見つけると、手を伸ばして掴もうとした。

届くと、思っていた。




届かないと知った今でも、
つい無意識に星に手を伸ばしていた。





始めから、届くはずなんてないものなんて、なければいいのに。




星も、空も、夢も。




届かないものばかり。




愛、というものがあるとしたら、私にはそれすら遠い。






伸ばしていた手を降ろして、ふと思う。






私が死んだら、誰か悲しんでくれるだろうか。




友達、学校の先生、近所の人…思いだそうとしても、ぼんやりと靄がかかって思い出せない。



だけど、きっとみんな涙する。私の死を嘆いてくれる。




そして一ヶ月もしないうちに、私のいない世界が、正しい世界に変わる。




人は、そうやって世界を更新して生きていくから。




それで、いい。




忘れてくれたほうがいい。
私なんか、最初からいなかったみたいに。

そんな世界で、いいと思う。








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