『悠希へ。』



そう書き出された、真っ白な便箋が、ただ一枚、ちゃぶ台の上にぽつりと置かれていた。



家賃が安い、とても小さなアパート。


確かに私の家は貧しい。

お母さんが早朝から夜中まで働いてもギリギリで繋がれている家計。



だけど、ちゃぶ台しか買えないほど貧乏ではない。



少なくとも、生活に必要最低限の家電は揃っていた。


…朝、私が学校に行くまでは。







『悠希へ。』









そう書かれた一枚の置き手紙を、ただ見つめる。


整ったその字を、ただぼんやりと。



ただぼんやりと視界に写しているだけで、

文章なんかちっとも読んでないはずなのに、

何故だか、頭はその内容を理解していた。






―――私は、捨てられたんだ。








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