「ずっと、不思議だったでしょ?

なんで私が先生のこと、よーたくん、って呼ばないのか」


「ああ」


奏はなぜか笑顔で。

それが不思議だった。



「呼べるワケないよ。

よーたくん、なんて。


ドキドキして、呼べるワケ…ない」


ふっと奏は笑った。

でもその顔は、最高に悲しかった。



「センセ?

ずっと意地悪しててごめんね。

キツいことばっかり言ってごめんね。


だけど私、どうやって接すればいいのか分からなくて。

だからあんなふうにしか…話せなかったの」


ずっと奏は器用なヤツなんだと思ってた。

だってなんだって上手にこなしていくから。


だけど、そうじゃないんだな。

本当は、すっげぇ不器用だったんだな。



「俺、お前のこと…『特別だ』って思ってた」


「特別?」


そう、特別。

他の生徒とは違う、って。



「俺、すっげぇ、好きだったよ。

教師として、好きだった」


生徒に差をつけるのはいけないことだと分かっていたけど。

だけど、奏は間違いなく、俺の中で1番の生徒だった。


俺の受け持つ英語の点数は悪かったけど、

俺に言う言葉は厳しかったけど。


だけど俺は、好きだった。

教師として、奏という生徒のことが、好きだった。