僕は無言でハンカチを差し出した。
でも麻衣は受け取ろうとしてくれない。
「なあ、麻衣。
僕は3年で必ず戻ってくる。
だけど、待っててくれ、なんて言わないから。
だから、いろんな世界を見てくるといいよ。
すごく、勉強になる。
僕のことなんて忘れてくれて構わない。
その代わり、ずっと笑顔でいて。
僕は麻衣の笑顔が1番好きだから。」
麻衣は首を小さく縦に動かした。
「…これは、受け取って」
俯いたままの麻衣は片手で箱を僕のほうに押しやる。
「いらなかったら捨ててくれてもいいから。
それは、優くんを思って買った物だから私が持ってても意味ないの。
だから、お願い…」
「…ありがとう」
箱を鞄にそっとしまった。
きっとこの時計は机の引き出しにしまうことになる。
だって身につけたり、見えるところにおいておいたら麻衣を思い出して帰りたくなるだろ。
だいたい…捨てるワケがない。
「じゃあ、僕は先に行くよ」
これ以上ここにいたら、
余計に辛くなるだけだから。
だから、僕は立ちあがった。
「さよなら、麻衣」
背中を向けて歩き出す。
微かに聞こえた
「頑張れ」
の言葉に堪えていた涙が一気に溢れだした。
―第7話 完―


