真白い羽毛の中からつきだした小さな手は、感心するほど器用に動いた。

 メディアの血で汚れた指と手首を、持ってきた水できれいに清め、ひんやりとする薬を塗りつけていく。

「ほんとうにもうこんな無茶をしないで下さいね。王様に知られると、ぼくが叱られるんだから」

 傷の手当をしながら、ふかふかヒヨコ少年ディはメディアに釘を差す。
 けれど、メディアも負けてはいない。

「だったら、これ外しなさいよ。こんなもの、私いらないわよ」

 と、手首と足首にはまった銀製の輪を示す。

「ダメです。王様は言っていました。あなたはとても強い力の持ち主だから、それがないとすぐに逃げてしまうって。それに、どっちにしろ、ぼくにはそれ外せませんから」

「じゃ、誰ならはずせるのよ?」

「王様なら、はずせますよ。つけたのも王様だし」

「じゃ、呼びなさいよ。この大魔女メディア様がお呼びだと、言いに行きなさいよ」

 メディアの強圧的な態度に、少年はまったくひるまなかった。

「無理を言わないで下さい。王様は夜の王。夜にならないとお出ましになりません」

「もしかして、夜行性なわけ?」

「さあ、そんなこと知らないけど、でも、そんなにあわてなくても、夜になれば王様にはちゃんと会えますよ。なにしろ、あなたは王様の花嫁になるんですから」

 何かひどく気持ち悪い単語を聞いた気がして、メディアは思わず聞き返した

「は、花嫁?」

「そうだよ。うれしくないんですか。王様はこの魔界で一番の力の持ち主。ぼくたちは、力の強い方の支配を受けることが、なによりの喜びだもの。そんな方の側に侍られるのに、うれしくないの?」

 わけがわからないとでも言いたげにディは首を傾げる。その仕草は、ほんとにヒヨコそのものに愛らしいが、言っていることはとんでもないことである。

「だれが、嬉しいの、だれがっ! それに私にはちゃんと別に結婚相手がいるの。なにが楽しくて夜の王の花嫁なんかにならないといけないのよ!」

 少年は不思議そうに、怒りだしたメディアを見つめていたが、何を思ったのか、ぱっと笑った。

「その結婚相手の人は、もしかして強い?」