薄暗い森の中にそれはあった。
 シャリアは驚きに青い瞳を瞠った。

「なんかすごい」

 垂直に立てられた巨大な絵のようにもみえないこともない。
 ゆうに大の大人の身長の四、五倍はあろうか。
 絵の内容は、森とは全く関係のない、どこまでも続く荒野を描いたようにもみえる。

 大きさをのぞけば、なんのへんてつもない風景画と言えないことはない。
 そう、水の表面に描かれてでもいるかのように、絵が揺れ動いていなければ。

 淡い輝きが、暗い森に光を与えていなければ。
 そして、絵を縁取る額縁が、ばちばちと音を立ててはじける金の火花でなければ。

「これが結界のほころび目か」

 さすがのロランツ王子の声音にも、喫驚の念が混じっている。

「やはり、ここで待っていてはくれませんか」

 ラムルダは無駄だろうと思いつつ、二人に頼んでみる。

「このむこうには、なにがあるかわからない。あなた方の身の安全を保障できません」

「そんな必要はないと言ったはずだ」

 王子の答えは、予想以上にすげない。
 さらに。

「そうそう、それになんかわくわくするし」

 草原の姫君は、兄以上に父の血を引いているらしい。

 あのおもしろければ何でもよしとしてしまう、人騒がせな王と同じ色の青い瞳が輝いている。なまじ見かけがかわいいだけに、あの王よりも手に負えない気がした。

 魔法院の院長は、本日、何度目かしれないため息を落とす。

「わかりました。では、参りますよ」

「あ、待ってください」

 三人の姿は、結界のほころび目の中に飲み込まれた。