「ったく、あなたが一人で行くのじゃなくて、幸いだ」

「どういう意味です、それは?」

「昔から、あの子のことになるといつも無茶をしてきたからね。ほんとうは、あなたがあの子の父親かと疑いたくなるほど」

「そんなわけないでしょう」

「わかってるさ。でも、気分はそんなものだろ。とにかく、連れがあれば、いくらあなたでも無茶はしないだろう。一番心配なのは、むしろ王子様の方かしらね」

 ふいに矛先をむけられても、ロランツは動じなかった。
 平静な口調で応じる。

「僕は大丈夫ですよ」

「どうかな」

 不信げに言いながらカリナは、今度はシャリアに視線を転じた。

「お姫様、頼みがある。草原育ちのあなたが一番頼りになりそうだ。この男たちを頼んだ
よ」

「わかってるわ。でも、その前に一つ私からも頼みがあります。私のことはシャリアと呼んで下さい、カリナさん」

 カリナはふわりと微笑んだ。

「あなたのこと気に入ったよ、シャリア」

「ありがとう、カリナさん」

「じゃ、私は行くよ。たしかにあの男を一人にしていると、ろくなことにならないからね」

 かるく手をあげると、カリナは背を向けて、歩き出した。

「ろくなことって?」

 シャリアに尋ねられて、ラムルダは顔を若干ひきつらせた。
 現『封の主』が、酒癖と女癖と手癖が悪いという三拍子そろった、とんでもない人物だとは、とても言えない。

「いや、それよりも急ぎましょう。ほころび目はこの奥です」

 ラムルダは二人の先に立って、歩き出した。