侍従長が顔を覗かせた。

 白い髪に白い髭。
 謹厳実直を絵に描いたような壮年の彼を見て、ロランツはしかたなくメディアを解放する。彼は何かと男女関係にうるさいのだ。

 お仲がおよろしいのはよいが、ご結婚までは節度を守ったおつき合いをとか。

 メディアと婚約する前は、どうにかしてどこぞの令嬢を押しつけようと必死だったのが、嘘のようだ。

 しかし、節度を守るもなにも、こっちはまだメディアの心をつかみきっているわけではない。せっかく、ここまで距離を縮めてきたのだ。下手に手を出して嫌われてしまう気は毛頭ない。

 解放されたとたん、メディアはロランツの手が、すぐには届かないところまで、後ずさっていってしまう。

 そこまで警戒せずともいいだろうにと恨めしげに思いながらも、彼は侍従長に目を向けた。不本意ながら声が尖るのを隠しきれない。

「何か用ですか」

「妹君が……」

 彼はろくに最後まで言い終わることが出来なかった。なぜなら背後から突き飛ばされたからだった。