『まじ? 良かったじゃん! ま、練習がんばってきなよ。でもほどほどにね。あんた、最近顔色悪いから。ぶっ倒れんなよ?』


「倒れないっつの! でも、さんきゅ! じゃあ、切るわ。またねー」


亜耶が携帯を閉じると同時に、電車が向かってくるのが見えた。少しずつ、こちらに近づいてくる。スピードを落としながら。


電車の前窓に反射した太陽光に目が眩み、亜耶は思わず目を閉じる……。




亜耶が再び目を開けたとき、目の前には大学の門があった。


「……え?」


亜耶は目をしばたいた。


さっきまで駅にいたはずなのに何故大学前にいるのだろう。それに、右手に握っていた携帯電話がない。鞄も。


周りを見渡してそれらを探していると、後ろから声をかけられた。


「亜耶じゃん」


聞き慣れた声に振り向くと……そこには真奈が立っていた。


真奈はスタイル抜群の長身で、切れ長の目の横に小さなホクロがある。茶色に染めたセミロングの髪を、後ろで優雅に束ねていた。


亜耶の様子を見て、真奈は「何してんの?」と不思議そうに問いかけた。そして、あることに気づいた真奈は目を光らせて言葉を続ける。


「水着を持ってきてないんだぁ。って事は、今日は練習しないつもり? 先週の予選で私に勝ったからって、随分な余裕ねぇ」


その言葉に、亜耶はむっと顔をしかめた。


真奈はいつもこうなのだ。亜耶を見る度に憎まれ口を叩かないと気が済まないらしい。しかし、亜耶の性格では黙っているわけがない。


「練習しなくても本戦で私が勝つことに変わりないしね。誰かさんみたいに、必死で練習しなきゃ勝てない相手もいないから」


亜耶のその言葉に、今度は真奈が表情を歪め、吐き捨てるように言った。


「忘れてるようだから言っとくけど、去年の優勝者は私よ! 予選で勝てたぐらいで、いい気にならないでよ!」


「一昨年の優勝者があんたの目の前にいることわかってる? それに、試合に勝った数は私の方が多いよね?」


亜耶が声を張り上げた。


校門を出入りする何人かの学生が振り返り、怪訝な目をこちらに向けている。しかし、これは二人が大声で言い合いをしているからではなかった。