「だけど恭は納得してくれなかった。だから、つい怒鳴ってしまったの。『言うことが聞けないなら出ていきなさい』って。そしたら、自分の部屋に行ったまま本当に姿を消してしまって……」


宏海がそこまで言ったとき、二階から階段を駆け降りてくる音が響いた。


その音に遥香と宏海が顔を上げると、八歳ほどの少年がリビングに飛び込んで来た。恭の弟、裕太だ。


「お母さん!光璃ちゃんがテレビに出てるよ!」


「光璃ちゃん?」


宏海が言い終わらないうちに裕太がテレビのスイッチを入れた。それと同時にテレビ画面に光璃の顔写真が映し出される。


『……に、行方不明になっていた片岡光璃さん、八歳が自宅付近で遺体となって発見されました』


遥香、宏海、裕太が真剣な眼差しでテレビ画面を見入る中、キャスターは淡々と原稿を読み続ける。


『光璃さんの胸には鋭利な刃物で刺された跡があり、また全身が濡れていたため、何者かが光璃さんを誘拐した上で刺殺したものとして捜査を進めています』


「ねぇ、光璃ちゃん見つかったんでしょ?明日学校に来るよね!?」


ニュースの内容を理解できていない裕太は、嬉しそうにピョンピョン跳ねながら声を上げた。しかし、宏海も遥香もテレビに釘づけで裕太の声は届いていない。


『この事件が"神隠し"と噂されている子供達の失踪と関係があるのではと懸念される中、消えるのは何故かこの県内の子供達ばかりということもあり、警察は注意を呼びかけています』


神隠し事件で初めて出た死者の情報にテレビ局は湧きだっているのだろう。深刻な顔でニュースを読み上げるキャスターの後ろでは、慌ただしく情報をかき集めるテレビ局の人間達がガラスごしに映し出されていた。


その後に画面が切り替わり、今度は神隠しの特集であろうVTRが流れ始める。


しかし、もはや遥香と宏海の目にはその映像は映っていなかった。


"まさか、自分の子供の失踪も神隠し事件に関係があるのだろうか?"……この考えが、遥香と宏海の頭を支配していたからだ。