―Adults Side―



蒼依が姿を消して3日目の夜。真っ暗な闇の中、蒼依の母:遥香は安西の車に乗って勤務先から自宅へと向かっていた。


「蒼依ちゃん、どこに行っちゃったんでしょうね」


安西がハンドルを握りながら心配そうに呟く横で、助手席に座る遥香は固い表情のまま黙っていた。


蒼依が"消えた"ことは安西には話していなかった。ただ"いなくなった"としか伝えていない。真実を話したところで、そんな非現実的な事を信じてもらえるとは到底思えないからだ。


安西に勧められて捜索願の届け出にも行ったが、そんなものは意味がないとわかっていた。蒼依は家出でも誘拐でもなく、忽然と姿を消したのだから。


――蒼依がいなくなって、私は自由を手に入れた。自分の事だけを考えて自分のためだけに生きていける。

なのに……

どうして心が晴れないんだろう。むしろ、ぽっかりと開いた心の穴が日に日に広がっていく。


小さくため息をつく遥香を見て、安西が気遣わしげに問い掛けた。


「本当に一人で大丈夫ですか?」


安西は蒼依が戻るまで自分も遥香の家にいようかと申し出てくれていた。遥香にとって、その優しさや気遣いが嬉しかった。自分は一人じゃない……そう感じさせてくれたから。


しかし胸に立ち込める虚無感が嬉しさを打ち負かしていまい、どうしても安西と一緒に住む気にはなれなかった。


「大丈夫よ」


遥香が力無く微笑みながらそう言った時、ちょうど安西の車が遥香の家の前に到着した。


遥香はドアを開けて車を降り、笑顔で礼を言う。


「送ってくれてありがとう。また明日ね」


「はい、また明日。何かあったらすぐに電話してくださいね」


安西はそう言うと、アクセルを踏んで自宅へと車を進めていった。


安西の車が完全に見えなくなるまで見送った後、遥香は真っ暗な自宅を見上げる。


目の前にそびえ立つこの家が無性に大きく感じられた。一年前、夫と娘と一緒に暮らしていた家と同じものだとは思えないほどに。