少女は短い黒髪を風で揺らしながら、無表情のまま座り漕ぎをしている。その様子を見て、蒼依は思わず呟いた。


「女の子?」


その言葉の後に隼人が口を開く。


「Separate Worldの住人か」


――うそ……。こんな小さな子までいるの!?


驚きを隠せない蒼依は、ブランコに乗っている少女を呆然と見つめていた。何となくだが、その少女の瞳の奥に寂しさが秘められているように感じられる。


立ち上がって少女に歩み寄ろうとする蒼依の腕を、隼人が素早く掴んで引き戻した。


「おい、何する気だよ?」


「だって、あの子一人なんだよ?」


「だから何だ?俺らには関係ないだろ。放っておけ」


冷たく言い放つ隼人に、蒼依が呆れの目を向けた。


「桐生ってどうしてそんなに冷酷なの!? こんな世界で一人だなんて、不安に決まって……」


「なにか用ですか?」


振り返ると、さっきまでブランコに乗っていたはずの少女が蒼依達の背後に立っていた。しゃかみこんで言い合いをしていた蒼依と隼人を不信の目で見下ろしている。


「あ……怪しい者じゃないの!たまたま通り掛かっただけで」


蒼依が慌てて笑顔を取り繕ったが、少女は未だに怪訝な顔をしている。


「えーっと……あなた、名前何て言うの?」


蒼依が少し苦しそうな笑顔を向けながら尋ねた。が、少女の答えはたった一言だった。


「……教えません」


「へ?」


「知らない人に名前を教えてはいけません。これは、お母さんからの言い付けです」


淡々と言葉を紡ぐ少女に驚きつつも、蒼依は諦めずに話を続けようとした。


「そ、そっか。ここで何してたの?」


「ブランコに乗って遊んでいました。でも、もう帰ります」


「お家、この近く?」


蒼依が心配そうに尋ねた。しかし、その瞬間に少女の眉がピクッと動き、蒼依達を見る目がさらにきつくなった。


そんな事を知ってどうする?……明らかにそう言っているような、不審者を見る目だ。