向こう。

「じゃあ俺は行くけど、無理はすんなよ?」

舞瀬はしつこい位、何度も念を押し言った。

「分かってるって。
早く行かないと遅刻するぞ?」

「やべっ、本当だ。
凪、いい子にしてろよ?
じゃ、行ってくる。」

ようやく舞瀬がドアを開けたのを見て、俺は思わず口元を緩ませた。

「はいはい、行ってらっしゃい。」

すると舞瀬が玄関を一歩出たところで不意に止まり、こっちへ振り向いた。

「なんか、新婚さんみたいだな。」

「な…っ」

「じゃあな、放課後また来る。」

それだけ言うと、舞瀬はさっさと出て行ってしまった。
俺はその場でしゃがみ、頭を抱えた。

「あいつ…っ」

もう治りかけのはずの風邪が、またぶり返すんじゃないかという位、俺の体温は熱くなっていた。