俺の母さんは綺麗で優しく、誰から見ても素晴らしい母親だった。
俺もそんな母さんが大好きだった。
父さんは大企業の幹部で、帰りは遅く、話すことはあまりなかった。
少し寂しい気もしていたが、裕福で何不自由無い生活を送っていた。
俺は無邪気に幸せを感じていた。

しかしそれも長くは続かなかった。
俺が小学六年生のとき、母さんは体調を悪くして入院した。
末期のガンだった。
ついこの前まで元気そうに家事をこなしていたのに、みるみるうちに衰弱していくのを俺はこの目で見ていた。
医者が手を施すスキもなく、母さんは静かに消えるようにこの世を去った。
入院してわずか三ヶ月のことだった。