私の家は、神奈川県南部のある町を取り仕切っていた名家でありました。

今でもその力は絶大ですが、全盛期と比べるとやはり劣ります。

と、お母様が一度だけ話してくださいました。

私にはまだ難しくてよく理解できませんでした。

だから、お母様はそれ以来一度もこの話を口に出しませんでした。

お母様はとても綺麗です。

長い黒髪が背中にさらりと、艶やかに流れているのです。

私はお母様が大好きでした。

ですが、お母様はいつも布団でくるまって寝ています。

私は毎朝、早く起きて学校へと通っているというのに、です。

私はお母様が羨ましくてたまりません。

学校は楽しいけれど、一日中布団に包まっていてもきっと楽しいだろうと思うのです。

ある日、お母様にそのことを話すとお母様はいつも眉を下げて悲しそうに笑いながら、


「そうねえ‥。私はずるいわね。」


そう言って私の頭をなでてくださるのです。

何度も、何度も。

私は何故お母様は撫でてくださるのかはわかりません。

でもそうされると、そんな事はどうでもよくなってきて、お母様に学校であったことを私は話すのです。

お母様はずっとにこにこ笑いながら聞いてくれます。

そうしてる間にお食事の時間がきて、私はお父様のところへと連れて行かれるのです。

お母様はお布団に座りながら、微かに手を振って、また後でね、と言います。

私も手を振り返して、また後で来ます、お母様、と言うのです。