「ささ、先生、もう一杯!」


「あ、すみません」


カウンター越しにビールを差し出す
お父さんにグラスを差し出す先生。


(・・・なんでこんなことに・・・)



私はため息をひとつ付くと、
常連さんが帰った後のお皿を重ねた。



姉の麻央(マオ)の一言で
店から飛び出してきた両親と
常連のお客さんたち。


そんな様子に先生は顔色一つ変えず・・・
いや、正確にはものすごく顔色を変えて
丁寧に挨拶をした。


・・・満面の笑みで。



「初めまして。

恵麻さんの学校で教諭をしております

冴木遼(さえきはるか)と申します。

実験の後片付けを手伝ってもらっていたら

すっかり遅くなりまして。

大切なお嬢さんを夜道一人で歩かせるのは

心配でしたので、

勝手ながらご自宅までお送りさせて頂きました」



なんて頭を下げるものだから。


お父さんもお母さんも
感激して店に招き入れたのだ。


我が家は小さいけれど代々続く
割烹料理店。

どちらかというと小料理屋に近い
フランクなお店で
商店街の人たちが良く贔屓にしてくれている。


お父さんは頑固な職人だけど
情にもろくて。

お母さんはおっとりしてて
着物が良く似合ういつも笑顔。

姉の麻央ちゃんは、
スタイルも良くて明るく元気。
妹の私が言うのもおかしいけれど
すごく美人。

お父さんそっくりの性格で
気は強いけれど。