河野の話を聞いていて、
そんな高校の頃の記憶にスイッチが入った。
 
夢を持ちなさい。夢をあきらめてはダメ。

何度となくこのフレーズを耳にしてきた。

でもこのフレーズには
但し書きが付いていたのだ。

なるべく他の人と
同じような夢を持ちなさい。
叶う夢を見なさい。
叶わない夢は最初から見てはいけません。 
 

わたしの味わった思いなど、
聴覚障害者の人々に比べたら
些細なものでしかない。

けれどはなから夢を
否定されてしまった悲しみに、
多少なりとも寄り添うことはできる。
 
もう一つわかったことがある。

思いやりを持つことや、
人の気持ちを分かってあげることは
とても大切なことだ。

とは言え人の気持ちなんて、
そうやすやすと理解できるものではない。

わたしは河野の話を聞き改めてそう思った。
 
河野の話にわたしは背中を押された。

見学にきたのは不純な動機だった。

幸太と一緒にいたいと
思う気持ちは変わらないが、
手話と要約筆記には俄然興味を持った。

それからのわたしは
毎週金曜日の会社帰りにサークルに通い、
手話と要約筆記の両方を学び始めた。