田脳だった。のっそりと歩くので、物音がしなかったのだ。それに高基教諭は藤美教諭のことで頭がいっぱいで、前を見ているようで、見ていなかったのだ。

「な、何か用ですか?」

 田脳は高基教諭に黙って見られていたので、気になったのだ。

「今、から音楽室に行け!」

 高坂教諭は冷静さを失っていた。怒鳴ることしかできなかった。

「な、何で、ですか?」

 田脳は怯えたように体をこわばらせた。

「何でだ? いいから行け!」

「り、理由がないと行けません」

「理由? いつも音楽室にいるじゃないか!」