「よ、呼ばれたんですけど……」

 相変わらず、田脳はおどおどしている。

「私が呼んだの。準備室の片付けを手伝ってもらおうと思ってね」

 藤美教諭が言うと、波教頭はまた表情がゆるんだ。

「そうか、今の話はまた後で……」

 波教頭は言い残して音楽室を退室した。

「田脳さん、ナイスタイミング! あれ、脇に何を持っているの?」

「は、はあ、ちょっと……」

 田脳は一部始終見ていた。藤美教諭が波教頭を手玉に取るのがうまく、怖くなっていた。

「本ね?」

 黙っていた田脳の脇を藤美教諭はのぞきこんだのだ。