「お医者様・・・ここは?」


お婆さんは辺りを見渡すと尋ねた。


「ここはこれから死に行くものが通る場所だ。」


僕はお婆さんを見つめ言った。


「そうかい、そうかい、とうとう私にもお迎えがきたのかい。」


辺り一面に菜の花畑が広がっている。


この場所はこの世とあの世のの狭間、通り逝く魂の現世の一番の記憶が映し出される。


不慮の事故や殺人で殺された人は唐突のことで混乱し真っ白の空間になる場合がある。


寿命でここにくる人は大概死を受け入れる覚悟ができている。


だから一番良い思い出が映し出されるのだ。


「これから先どうするか3つの選択肢の中から1つ選んでもらう。一つ目は元いた場所に還り生まれ変わる。2つ目は現世に残り魂のままさ迷う。3つ目は大切なものと引き換えに生き返る。」


いつもの様に質問する。


「私も歳だし心残りはない。大切なものを失ってまで生き返りたいとは思わないよ。第一、大切なものが子供や孫だったら私は自分を許せきれないからね。」


微笑むと少し沈黙するとまた話始めた。


「けれど、ひとつだけ・・・。ひとつだけ気にかかることが・・・。」


少しだけ、ほんの少しだけ寂しそうな顔をして言った。