言葉の壁というのは小さくはない。
実父だと言い張る男と、その再婚相手、それから、今日からお前はお姉さんだよ、と言われ、2歳の弟ができた。実母について、あえて聞くことはしなかったが、離婚でもしたのだろう。浪費家の岡寿郎についていこうなんて物好きは、この若い女くらいしかいないだろうな、と子ども心に思っていた。
ボクはもう中学二年になっていた。どこの土地でも、違う地方の言葉は受け入れられにくい。初めはからかわれる。そのうちに、誰も話しかけてくれなくなって、いじめの標的になる。…しかし、ボクはなぜか例外だった。からかわれ、話しかけられなくなる段階で止まってしまった。とても規律の厳しい中学校で、昔いじめがあった際に、いじめの主犯格の方が登校拒否になってしまったというほど、教師と生徒との序列はまるで将軍と御家人のようであった。学校にいる間はずっと監視されているようで窮屈さを感じざるをえなかったが、誰にも干渉されなかったのはありがたかった。人見知りな上に無駄な争いを避けたかったので、誰も来ない方が都合がよかった。

ただ、学校ではネグレクトを受け、父という人は気性が荒くて殴られる事が多かった為、ボクは自分の殻に閉じこもるようになり、自分の生きる意味を考えるようになった。施設にいた頃から少しずつではあるが、自分はここにいてはいけないのではないかと思うようにはなっていた。例えば食事をしている時、自分がいることで空気を悪くしているとすら思っていた。
それは、今にして思えば祖父母以外から愛情を貰ったことのないボクにとって、愛してくれる祖父母のいないこの世界に用などなかったのだ。