思春期と呼ぶには少し早い頃、この見慣れぬ土地でキミに出逢った。人見知りを抱えて不安だったボクに最初に話しかけてくれたのは確か君だっただろうか。よくは覚えていない。ただ、知っている人が誰もいなくて、孤独の欠片を抱いていたボクがキミに惹かれるのは早かった。でも、それは恋や愛ではなくて、ただ拠り所がほしかっただけなんだ。いつの頃からか、気付けば両親はおらず、祖父母に育てられ、小学校を卒業する頃には唯一の身内であった祖父母を亡くし、施設に預けられた。他の一般家庭と違う事は気にならなかった。それほどまでに祖父母の愛が強かったから。けれど、施設に預けられるようになって初めて自分を必要とする者がいない事を知った。施設には自分と似たような境遇の子どもたちがたくさんいたけれど、誰とも打ち解けられず、誰にも心を開く事はできなかった。今思えば溺愛してくれた祖父母以外に心を開く方法をボクは知らなかった。
そんな時、ふいに隣の席から声をかけてくれたのがキミだった。ひとりぼっちになってしまったボクにとってそれほど救われることはなかった。ただ、勇気がなかったボクはキミにも心を開けなかった。違う、もう少し時間があればよかったんだ。キミと共に過ごした年月はたった一年間で、その一年間は今でもボクの中では輝いてるんだ。

後にボクが知る事だけれど、彼もまた父親がいなかった。彼が幼い頃、多額の借金を残して蒸発してしまったんだと言う。でも、彼は決して同情からボクに近づいたのではないとも言っていた。ただ、単純に突然現れた転校生に興味を持っただけだそうだ。
「傷の舐めあいなんて、そんなにばからしいことはないだろ?」
と言い放った彼は煙草を片手にくわえて、外を眺めていた。ボクは傷の舐めあいでもよかった。ただ、自分のアイデンティティーをどこに置くべきか迷っていたときの一筋の光は彼だった。

一年間の施設生活から、ボクの本当の両親だと言う夫婦が突然現れ、ボクを引き取りたいと言い出した。昔、祖父母から聞いたのは悲しくも彼と同じようにボクの父親が事業に失敗して、借金から逃れるのに荷物になったボクを捨てたのだと聞いた。母方の祖父母に預けられていたボクは父の借金など知る由もなく、何もない生活をしていたが、一度父の名前を尋ねた事があった。祖父は渋りながらも「岡」という姓である事を教えてくれた。