人こそ芸術 part1


栞を探す。

「修、これがイイ!」

手招きをする栞を見つけた。

相変わらず水槽を見て、僕を見ていない。

「次はどれ?」

歩み寄り、栞が指差す水槽を覗き込む。

小さな水槽の中で泳いでいたのは、茶色い熱帯魚。

この熱帯魚も見た目で名前を付けられたようだ。

『チョコレートグラミィ』

「へぇー可愛いじゃん」

「このコもいいかな?」

「いいよ。気に入ったし」

甘い?優しすぎる?

そんな事は無い。

好みがまったく一緒なのだ。

三種類までならいいよ。

そう言おうとして止めた。

隣に栞の気配が無い。

周りを見ると向かいの水槽を覗く栞の後ろ姿を見つけた。

やっぱり言わなくて良かったと思う。

多分栞はまた水槽を見ながら左手で手招きをする筈。

それは僕がここに居ると思っているから。

少し可哀想だが意地悪をしてみよう。

今僕は1.5m程離れた、栞の左側に居る。

手招きをされる前に右側に移って驚かせよう。

床から足を離さず、ゆっくり靴音がしないように右側に移る。