栞を探す。
「修、これがイイ!」
手招きをする栞を見つけた。
相変わらず水槽を見て、僕を見ていない。
「次はどれ?」
歩み寄り、栞が指差す水槽を覗き込む。
小さな水槽の中で泳いでいたのは、茶色い熱帯魚。
この熱帯魚も見た目で名前を付けられたようだ。
『チョコレートグラミィ』
「へぇー可愛いじゃん」
「このコもいいかな?」
「いいよ。気に入ったし」
甘い?優しすぎる?
そんな事は無い。
好みがまったく一緒なのだ。
三種類までならいいよ。
そう言おうとして止めた。
隣に栞の気配が無い。
周りを見ると向かいの水槽を覗く栞の後ろ姿を見つけた。
やっぱり言わなくて良かったと思う。
多分栞はまた水槽を見ながら左手で手招きをする筈。
それは僕がここに居ると思っているから。
少し可哀想だが意地悪をしてみよう。
今僕は1.5m程離れた、栞の左側に居る。
手招きをされる前に右側に移って驚かせよう。
床から足を離さず、ゆっくり靴音がしないように右側に移る。



