人こそ芸術 part1


リビングの壁に掛けられた時計に目をやると、栞が来る予定時間まであと10分も無かった。

特にする事も無いので、リビングの隣にある寝室のベッドに倒れ込む。

ひんやりと冷たい布団が心地よい。

僕は薄暗い部屋に浮かび上がる天井をじっと見つめる。

栞が来た事を知らせるチャイムが家に響いたのは22時丁度だった。

「いらっしゃい」

「ちょっと買いすぎちゃった」

玄関を開けると栞はパンパンに膨らんだエコバッグを見せ、苦笑いをした。

「重かったでしょ?」

栞からエコバッグを受け取り、リビングへ向かった。

「何買ってきたのー?」

テーブルの上にエコバッグの中身を出していく。

「パスタ食べたかったから、その材料」

微笑むその顔は、たまらなく愛しい。

材料の中では生トマトとホールトマトの缶が目立った。

「栞は、ほんっとトマト好きだよなぁ」

まぁ僕も好きだけど。

「早く作ろう!?お腹空いちゃった」

栞は白いブランド物の鞄から黒いエプロンを取り出し、身に着けた。

「エプロン似合うじゃん」

ウエストのラインがよく見える。

「修のもあるよ」

そう言って同じ鞄からお揃いのエプロンを出して、僕に差し出した。