「失礼します」

院長に呼び出されることは少なくない。

その内容は大概、栞の事。

「内田院長、お呼びでしょうか?」

大きなデスクを挟んだ向こうに座る内田院長。

彼女は栞の母親。

だから栞と付き合っている事は秘密。

「小山るうさんが来ていないの。目黒先生、何か知りません?」

「僕は知りません」

「そう・・・困ったわね。あ、もう帰って結構です」

困った様には見えない。

内田院長はいつも事務的で冷たい人。

軽く頭を下げて扉に向かう。

僕が扉に手を掛けると、後ろから内田院長に呼び止められた。

「ついでだから聞くけど、栞とは付き合ってるの?」

おそらくこれが本題なのだろう。

僕は振り返らずに答えた。

「何かの間違いじゃありませんか?」

僕は扉を開け、院長室を出た。

栞と付き合っている事をいつまで黙っていればいいのか、自分でも判らない。

ただ今は言ってはいけない。