帰ろうと支度をしていると、よく栞がオフィスにやって来る。
まぁ僕の勤務終了の時間を知っているからなのだが。
ノック無しに扉を開けた栞は少し不機嫌だった。
扉を乱暴に閉め、デスクを挟んだ僕の前に立った。
「喧嘩でもしたのか?」
僕は含み笑いをする。
「しそうになった」
栞が腕を組む。
「・・・誰と?」
鞄に書類などを入れながら聞く。
チラリと栞を見ると綺麗な顔には不釣合いな皺が眉の間に入っていた。
「舞と!ってか告られたって本当なの!?」
栞は僕のデスクを手の平で叩く。
「今日いきなり言われたんだ」
栞の目を見る。
「私がいるのに何で直ぐ断らなかったの!?」
やはりその点で機嫌が悪かったのか。
「栞に聞きたくて・・・。なるべく傷つけない断り方を」
少しの沈黙。
嫌な沈黙だった。
漸く栞が口を開いた。
「・・・それ本当?」
「本当だよ。女心って難しいからね。どうやって断ればいいか判んないし」
僕は優しく微笑む。
「疑ってゴメンネ。私てっきり・・・」
栞は僕の方へ回り、抱き付き耳元で囁いた。
「僕は栞だけを愛してるから」
栞の髪を撫でる。
栞は潤んだ瞳を閉じ、僕と唇を重ねた。
舌が絡み合う。
僕は心の底から栞を愛している。
嘘なんかじゃない。
栞を・・・栞だけを愛してる。