今頃、小山るうは事の重大さに気が付いているだろうか。

珍しく栞が持って来てくれた珈琲を啜りながら思う。

栞が淹れる珈琲は甘くないブラック珈琲。

ちゃんと僕の好みを知っている。

ノックの音が静かな部屋に響く。

「どうぞ」

ゆっくりと扉が開く。

「失礼します」

入ってきたのは櫻井舞だった。

「おはよう、櫻井さん」

「おはようございます、目黒先生」

今日の櫻井舞はどこか変だ。

メイクもいつもより濃いし、白衣の丈も少し短い。

そして笑顔がぎこちなく、少しソワソワしていて落ち着きが無い。

「何かご用ですか?」

僕の言葉に櫻井舞の目線はタイルカーペットの床をさまよってしまった。

「どうかしました?」

「あの・・・」

じわじわと目線が僕の体を這い上がってくる。

「あの・・・」

漸く目が合う。

「私、目黒先生の事が好きなんです。お付き合いしていただけませんか?」

櫻井舞がオフィスに入ってきた時からそんな気はしていたが、予想通りの言葉を言われると素で驚いてしまう。