雨がパラつく水曜日。

この日は男女23人の診察と2人の患者の手術を行った。

小山るうの食事の誘いを断り、大急ぎで帰宅した。

僕のコレクションが増える日。

僕はこの日を楽しみにしていた。

予定より少し日にちは過ぎてしまったが、それはそれで構わない。

日にちを延ばせば延ばすほど“楽しみ”は増す。

僕は今、その“楽しみが”が頂点にある。

これで予定が明日にでもズレたら僕は耐えられないだろう。

硝子の向こうに居る大橋美鈴は自分の足首に付いた鎖をただ見つめていた。

下を向いているが、その顔は魚の死んだ様な顔をしていた。

でもやはり何処か美しい。

L字型の取っ手を下ろし、僕は部屋の中に入った。

白い糸が通った縫い針を手の平に隠して…。

「私、心臓移植してから大分体力回復してたんだね。ここに何日居るか判んないけど、体は大丈夫みたい…」

大橋美鈴は視線を鎖に向けたまま淡々と言った。

「それは良かったです」

「…何それ。私の体力回復を良かったなんて思うんだ」

大橋美鈴は僕の顔を見た。

その時初めて彼女が泣いている事を知る。

「当たり前です。貴方は僕の大切な作品になって一生のコレクションになるんですよ?具合が悪いなんて困ります」