土曜日の診察室には小さな音でクラシックが流れている。
僕はあまりクラシックに興味が無いので、何と言う曲が流れているか判らない。
「目黒先生、今日の診察は次の方で終わりです」
櫻井舞は可愛らしく微笑み、次の患者のカルテを差し出す。
「珍しく今日は診察だけだったね」
受け取ったカルテに目を通しながら言う。
壁に掛かった時計を見ると6時になるところだった。
櫻井舞は次の患者を呼びに診察室を出る。
何気なく窓の外に目を向ける。
夕日に照らされて建ち並ぶビルはオレンジ色に輝いていた。
診察室にノックの低い音が響き、櫻井舞が患者を連れて入ってきた。
患者は櫻井舞に誘導され、僕の目の前にある椅子に腰掛ける。
患者の名は林田真矢(ハヤシダマヤ)、37歳。
白髪の無い腰まで伸びた綺麗な髪。
年齢よりも若く見える。
「今日はどうされましたか?」
僕の診察時の決まり文句。
と言うよりも診察時は何処の医者も言うだろう。
子供の頃、その言葉を聞くと不思議と安心したものだ。
「あの・・・最近、だるくて胸が痛くなったりするんです」
「息切れや息苦しさはありますか?」
林田真矢は眉を顰め、頷く。