龍一に近づくなり、まずは口を塞いでいる物を取り除いてやる。
途端、龍一は、
「早く逃げろ、俺は大丈夫だ。」
早口だが、囁くような小声で言った。
だが、多恵は柱の後方へと回り込むと、龍一の両手首に何重にも巻かれたロープを懸命に解き始めた。
「嫌です。」
と一言、短く答える。
「何故だ? 俺一人ならなんとでもなる。だから安心して行け。このチャンスを無駄にするな。」
「絶対に嫌です。あなた… 皆人くんのお兄さんですよね!? 一緒に逃げましょう。」
「ああ…」
龍一も、10年も前に一度会ったきりだが、すぐに多恵の事を思い出した。
「そうか、あの時の… 皆人の彼女だったな。そして今は谷口の…」
『偶然の悪戯』とはこういうことを言うのだろうかと、この緊迫した状況下で龍一の表情が思わず緩む。
「彼女じゃないです。」
「じゃぁ、皆人の一方的な片思いだった訳だ。」
「こんな時に何言ってるんですか? 皆人くんが私を好きだったという事実もありません!」
危機感のない世間話的な龍一の発言に苛立ち、多恵は声を荒げた。
その辺の街角で、久しく会っていない友人とバッタリ出会ったのとは訳が違うのだ。
途端、龍一は、
「早く逃げろ、俺は大丈夫だ。」
早口だが、囁くような小声で言った。
だが、多恵は柱の後方へと回り込むと、龍一の両手首に何重にも巻かれたロープを懸命に解き始めた。
「嫌です。」
と一言、短く答える。
「何故だ? 俺一人ならなんとでもなる。だから安心して行け。このチャンスを無駄にするな。」
「絶対に嫌です。あなた… 皆人くんのお兄さんですよね!? 一緒に逃げましょう。」
「ああ…」
龍一も、10年も前に一度会ったきりだが、すぐに多恵の事を思い出した。
「そうか、あの時の… 皆人の彼女だったな。そして今は谷口の…」
『偶然の悪戯』とはこういうことを言うのだろうかと、この緊迫した状況下で龍一の表情が思わず緩む。
「彼女じゃないです。」
「じゃぁ、皆人の一方的な片思いだった訳だ。」
「こんな時に何言ってるんですか? 皆人くんが私を好きだったという事実もありません!」
危機感のない世間話的な龍一の発言に苛立ち、多恵は声を荒げた。
その辺の街角で、久しく会っていない友人とバッタリ出会ったのとは訳が違うのだ。



