ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】

 龍一に近づくなり、まずは口を塞いでいる物を取り除いてやる。


 途端、龍一は、


「早く逃げろ、俺は大丈夫だ。」


 早口だが、囁くような小声で言った。


 だが、多恵は柱の後方へと回り込むと、龍一の両手首に何重にも巻かれたロープを懸命に解き始めた。


「嫌です。」


 と一言、短く答える。


「何故だ? 俺一人ならなんとでもなる。だから安心して行け。このチャンスを無駄にするな。」


「絶対に嫌です。あなた… 皆人くんのお兄さんですよね!? 一緒に逃げましょう。」


「ああ…」


 龍一も、10年も前に一度会ったきりだが、すぐに多恵の事を思い出した。


「そうか、あの時の… 皆人の彼女だったな。そして今は谷口の…」


 『偶然の悪戯』とはこういうことを言うのだろうかと、この緊迫した状況下で龍一の表情が思わず緩む。


「彼女じゃないです。」


「じゃぁ、皆人の一方的な片思いだった訳だ。」


「こんな時に何言ってるんですか? 皆人くんが私を好きだったという事実もありません!」


 危機感のない世間話的な龍一の発言に苛立ち、多恵は声を荒げた。


 その辺の街角で、久しく会っていない友人とバッタリ出会ったのとは訳が違うのだ。