ロシアンルーレットⅡ【ｺﾐｶﾙｱｸｼｮﾝ】

「聞きたいことがあると言って、杉下さんはあの人の髪の毛を鷲掴みして、引き摺るように連れて行った。『俺は何も知らないんです』ってあの人、何度も何度も訴えてたのに。絶対に嘘はついてないのに。」


　女はそこで一旦、口をきつく結んだ。


　悲しみに耐えているのか、杉下に対して憤っているのか。


「あの人…　ここへはもう帰って来ないのかしら？」


　俺たちに、その答えを求められても困るしね。


　その時、再び谷口さんの尻からけたたましい機会音が鳴った。


　２・３言葉を交わした後、携帯電話を閉じた谷口さんは、言い辛そうに、どこか申し訳なさそうに、彼女が今、俺たちに投げかけた質問の答えを、彼女に伝えた。


「小手川誠一の遺体が見つかりました。」


　公園の噴水の中に沈んでいるのを、遊びに来た近所の親子が発見、救急車で病院に運ばれたがすでに息はなく、手遅れだったと、谷口さんはためらいがちに付け加えた。


　女の顔はみるみる蒼ざめ、それでも残る力全てを使ってフラフラと立ち上がる。


　壁に手を這わせ、傾く身体をなんとか直立に保ちながら、一歩一歩足を前方へと踏み出すのを見て、谷口さんも立ち上がって彼女を抱きかかえるようにして支えた。


「送ります。」


　そう声を掛けた谷口さんも、そして俺も、彼女は病院へ向かうものだと思い込んでいた。