「今朝… と言ってもまだ真っ暗だった。確か4時頃だったかしら。物音がして目を覚ましたらあの人が居たの。」
女は、そんな谷口さんに嫌悪感を抱くことなく、静かに記憶を辿るように話し始めた。
まぁ、谷口さんがどんな人間か、初対面の彼女が知るはずもなく、谷口さんを、感情に乏しい任務に忠実な刑事だと認識したんだろうな。
「あの人、なんだかすごく慌てていて、『ちくしょう、どうなってんだ』とか、『まずいことになった』とかブツブツ繰り返しながら、荷物を纏めてた。『どこかへ行くの?』って声かけたら、ようやく私の存在を思い出したみたいで。私に近付くと、『大丈夫、心配すんな。すぐ戻る。』なんて、またいつもの曖昧な約束なんかを口にして… 小さめのボストンバッグをぶら下げて出て行こうとした。」
俺と谷口さんは、黙ったまま、ひたすら彼女の言葉に意識を集中させていた。
「そしたら、杉下さんが… あの人がいる組の偉い人らしいんだけど… 乱暴にドアを開けて入って来て。土足で何よって私は思ったけど、あの人はそれどころじゃなくて。3年一緒にいるけど、あんなに脅えたあの人を見るのは初めてだった。ああ、違うな、人間があんなにも脅える姿を目の前で見たのは初めてだったかも…」
膝の上の谷口さんの右人差し指が、コツコツと膝を打ちつけ始めた。
無音ではあったが、谷口さんの苛立ちが聞こえてきそうで、俺はすぐに目を逸らした。
女は、そんな谷口さんに嫌悪感を抱くことなく、静かに記憶を辿るように話し始めた。
まぁ、谷口さんがどんな人間か、初対面の彼女が知るはずもなく、谷口さんを、感情に乏しい任務に忠実な刑事だと認識したんだろうな。
「あの人、なんだかすごく慌てていて、『ちくしょう、どうなってんだ』とか、『まずいことになった』とかブツブツ繰り返しながら、荷物を纏めてた。『どこかへ行くの?』って声かけたら、ようやく私の存在を思い出したみたいで。私に近付くと、『大丈夫、心配すんな。すぐ戻る。』なんて、またいつもの曖昧な約束なんかを口にして… 小さめのボストンバッグをぶら下げて出て行こうとした。」
俺と谷口さんは、黙ったまま、ひたすら彼女の言葉に意識を集中させていた。
「そしたら、杉下さんが… あの人がいる組の偉い人らしいんだけど… 乱暴にドアを開けて入って来て。土足で何よって私は思ったけど、あの人はそれどころじゃなくて。3年一緒にいるけど、あんなに脅えたあの人を見るのは初めてだった。ああ、違うな、人間があんなにも脅える姿を目の前で見たのは初めてだったかも…」
膝の上の谷口さんの右人差し指が、コツコツと膝を打ちつけ始めた。
無音ではあったが、谷口さんの苛立ちが聞こえてきそうで、俺はすぐに目を逸らした。



