寝ているところを起こされたであろうその女は、突然の見ず知らずの来訪者に、不快な表情を少しも見せず、ほんの微かな戸惑いを一瞬チラつかせただけで、すぐに部屋へ俺たちを招き入れた。
「お構いなく。」
茶でも入れようとしたのか、キッチンに立った女に谷口さんは言った。
6畳一間の狭い部屋に、女とそして先程身元が判明した指紋の持ち主二人の生活必需品が、ぎゅうぎゅう詰めにされているといった印象。
女は谷口さんの言葉に対して、諦めたような、疲れたような、苦い微笑みをこぼすと、俺たちが腰を落とした彼女の生活空間に戻って来て、俺たちと向き合うようにして彼女もまた腰を下ろす。
「あの人… またろくでもないことしたのね。」
定まらない視点を揺らして、意味もなく天井を見上げて女はポツリと言った。
「まだ詳しい事はわかっていません。なので、あなたに彼について伺おうかと。彼、小手川誠一に最後に会ったのはいつですか?」
谷口さんの言葉は、丁寧で礼儀正しかったが、要点だけを問う、事務的で心のないものだった。
刑事に人間の感情なんか必要ないってか?
同情や哀れみは、捜査には邪魔なだけってか?
谷口さんの冷ややかな態度に、俺は原因不明の苛立ちを覚えた。



