こんな風に…
俺の部屋にこうして、兄貴と二人きりでいるなんて、なんか変な気分だ。
まぁ、当の兄貴は俺の存在など忘れたかのように、銃の手入れに夢中だけどね。
俺たちが戻ると、谷口さんがまだ俺の部屋にいて、兄貴の姿を眼にし、ホッとしたような、それでいて辛そうな、複雑な表情をした。
「龍…」「言うな。」
谷口さんが何か言いかけたが、兄貴がいつもの威圧的な口調でそれを制した。
「わかっている。だが元はといえば俺が蒔いた種だ。」
そう静かに言って、兄貴は苦々しく微笑んで見せた。
俺がいない間に、尾藤グループから谷口さんに連絡があったらしく、奴らは兄貴を渡せば人質どちらか一人だけを解放すると言ったらしい。
そんなバカなことあるかと、谷口さんが抗議するも、その条件を覆す術がこちらにはなかった。
『多恵を、多恵を先に頼む…』
谷口さんは気が動転していて、聞かれもしないのにそう訴えたと、涙ぐみながら悔しそうに語った。
らしくない、奴らの思う壺じゃねーか。
確実に奴らは、子どもの方を先に返して来るだろう。
二人拉致したのは、最初から要求は二つあったということか。



