ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】

 促されるまま、身体を少し屈め、入り口をくぐるようにして中に足を踏み入れた。


 ハウス内は、苺どころか土すら綺麗さっぱり取り除かれ、何のビニールハウスかもはや不明な状態だった。


 俺が呆気にとられて眺めていると、兄貴が俺の心中を察したのか、


「ちょっと色々あってな。土台からやり直しだ。」


 そう言って、明らかに混血とわかる甘い整ったマスクを緩め、兄貴特有の魅惑の笑みを浮かべた。


 相変わらず微笑むタイミングが間違っている。


 兄貴の『色々』は、とんでもなく危険な臭いがプンプンするんだよ。


 聞くのも恐ろしいから、掘り下げるのは止めておく。


 兄貴が黙って俺を凝視するので、俺が切り出すのを待っているのだと気づき、ここへ来た真の目的を思い出す。


「谷口さんの妻子が、尾藤グループに誘拐された。」


 俺の言葉に弾かれたように、兄貴は視線を俺から外すと、忌々しげに大きく息を吐いた。