ロシアンルーレットⅡ【ｺﾐｶﾙｱｸｼｮﾝ】

「なんですか？」


「あの、なんて言ったらいいか…　あの工場で働き始めてから、希世ちゃんが隆治くんに手を引かれて、産婦人科を出入りする姿を見かけた人がいて…。」


「中絶ですか？」


「ええ、多分…。それも一度や二度じゃなくてね。これも噂なんだけど、どうもその工場で働いている若い子たちに…」


「レイプ？」


「いいえ、警察沙汰にはなってないから、違うんじゃないかしら。

　希世ちゃんは、とても無邪気な子でね、まるで幼い少女のようだったわ。本当に、天使のように可愛らしい子だった。

　哀しいことにあの子は、人を疑うことを知らなかったのよ。」


「すみません、仰ってる意味がちょっと…」


「ああ、そうよね。」


　オバサンは、ふっと気が抜けたように苦笑した。


「あの工場で働いてる子がね、『希世はバカだから、ちょっと優しくしてやれば、ヤラせてくれる』って…　話してるのを…　わた…　し、偶然居合わせた喫茶店で…　聞いてしまっ…　て…」


　言いながらオバサンは言葉を詰まらせ、そしてその目からは止め処なく涙がこぼれだした。


　慌ててハンカチを、手に提げていたバッグから取り出して、目元を左右交互に押さえた。


　色々な想いが一気に溢れ出してしまったようだ。


　〈泣いている女性を見たら抱きしめるの法則〉これ、皆人の法則。


　俺的に、オバサンは『女性』には分類されないので、この場合、この法則は適用されない。