いいや、実際にはどうでもよかった。
堀田は庭にそのままの足で踏み入った。
亡き母の残してくれた家だそうだ。
初めて訪問したときに彼がそう言った。
彼は夢見るように月光を浴びていた。
「ルナティック・シンドロームなんて言葉がこの世にはあったみたいだけど。これは違うと思うよ。これは人知の及ぶことじゃない。オレの、オレだけの世界のありかたなのさ」
そう言いながら、水に濡れた木の枝を持ち上げると、優雅な仕草で払った。
と、いきなり堀田は悲鳴をあげた。
「どうしたんだ? オイ!」
「蛇だ。猛毒を持つ奴だ。うようよいる。あんなに、食べ物に気をつけて、風呂にも散々入って、石けんも消毒液もぜんぶ、ぜんぶ……あのひとの言うとおりにしたのに」



