「これだけ血を流せば汚血はなくなったはずさ。ねえ、さゆりさん? 人間の獣臭さが消えて、毒虫すらも寄りつかない。そうだね?」
薄暗い部屋で、堀田は虚空に話しかけるが、応える者はなかった。
いや、もしかすると彼には聞こえていたのかも知れない。
「馬鹿なことはするんじゃない!」
東雲には心から叫ぶことしかできなかった。
それに何より、胸が痛かった。
がつ、と窓際から音がして、光に惹かれてきた蛾が毒蜘蛛の牙にかかるところだった。
蛾は蜘蛛に一噛みされたっきり、暴れもせず地に落ちた。
東雲には蛾を咀嚼する蜘蛛が見えた気がした。



